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2 建物賃貸借契約の終了

(5)正当事由 

(ニ)老朽化・建替え
  • 私は1階を店舗として賃貸し、2階に自らが居住している木造2階建の建物を都心に所有しています。このたび、建物が老朽化しているので7階建てのビルに建替えることを検討しており、1階を自ら使用する店舗とし、2階を居住用として使用することを考えています。このように、店舗として営利目的で賃貸している建物について、賃貸人が店舗兼住宅として建物利用を計画している場合、正当事由はどのように判断されるのでしょうか

  • 正当事由とは
    借地借家法28条は「(更新拒絶の通知または解約の申入れは)建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」としています。
    平成4年以前の契約は旧借家法が適用となりますが、借地借家法28条は旧借家法時代の判例の考え方を明文化したものであり、判断の枠組み自体に大きな変化はありません。
    参考事例(東京高判平成10年9月30日)
    賃貸人は築50年を経過した東京都港区の六本木に近い商店街に所在のする木造2階建ての建物(以下「本件建物」といいます)の2階部分に家族で居住し、1階部分を高級婦人下着の専門小売店舗として月額賃料約26万円で賃貸していました(賃貸面積約90㎡)。この賃貸人が賃借人に解約を申入れた事例です。
    (1) 賃貸人側は、本件建物の朽廃ないし老朽化により建替えの必要性が切迫していることに加え、本件建物を7階建てのビルに建替えた後、1階店舗部分で家族がインテリアウェアの陳列販売を計画し、2階には引き続き居住する予定であることを主張しました。また立退料についても500万円を提供する用意があるとしました。
    (2) これに対し、賃借人側は本件建物1階店舗で昭和30年代半ばから営業しており移転は固定客を失わせることや、本件建物の立地が、麻布、白金、広尾などの高級住宅地からのアクセスが良く、高級婦人下着の立地として他に類をみない好立地にあり、代替物件の確保が困難であることを強調しました。また、過去の近隣への出店での失敗経験などから、店舗の移転で生活基盤の全てを失い兼ねないと主張しました。
    (3) 裁判所は、建物の老朽化については、建物が傾いていて2階部分は居住に適した状態ではないとしつつも、木部の腐朽状態は深刻ではないとし、比較的簡単な工事(500万円程度の費用)で建物の寿命は10年延びると判断しました。また、本件建物の所在地が容積率500%で、再開発の進む商業地域であり、今後相当の費用をかけて建物の延命を図るよりは、建替えによって高層化し、自己所有建物で家族らとの居住と営業を実現したいという希望も無理からぬものがあると、賃貸人側の事情に一定の理解を示しました。しかし、賃貸人が他にも不動産を所有しており、本件建物以外に居住用建物を確保することがそれほど困難ではないとする一方で、賃借人は新しい店を確保しても営業不振ないし、廃業のリスクさえあるとして本件建物使用の必要性は賃借人の方が賃貸人に勝っていると判断しました。
    結局、裁判所は、賃借人の不利益を4000万円の立退料で補填して初めて賃貸人の解約申入は正当事由を満たすと判決しました。
    まとめ
    店舗のような営利目的の賃貸借の場合、居住目的の建物の賃貸借の場合に比較して、賃借人側の営業(顧客基盤、立地など)や代替物件の取得の困難性に対する配慮が厚くなされ、立退料についても、一般的に営業補償的な側面が加味されます。中には、立退料によっても正当事由を補完できないとされる事例もあります。